お知らせ NEWS
ZAPRECの特性に関する論文のご紹介
■諸言
現代における金型製造は、製品の原材料、成形・製造法、サイズ、用途、精度、その他、詳細に調べれば実に多くの仕分けが挙げられるが、何れの分類においても金型材料は殆どが鋼材である。アルミニウム、亜鉛、銅等の非鉄金属も一部実用化されているが、その比率は微々たるもので、『鋼材にアラズバ、金型にアラズ』という業界の認識は、決して誇張した表現ではない。
同時に昨今の金型業界を取り巻く環境は、中国やアジア諸国への生産拠点移動と、それを背景とした急激な価格破壊、息をつかせぬ納期短縮と高品質要求…等、金型メーカーの悲痛な叫びが聞こえているが、国内の金型産業に海外に対抗する策はないのであろうか?
鋼材の経験と技術を『物差し』にすると、鋼材とは物性が異なり且つ強度が低い亜鉛合金の採用に否定的になるのは当然といえる。しかし、型メーカー、成形メーカーがZAPREC金型を実体験し、多角的・鳥瞰的に評価することができれば、夢のある金型材料であることを容易に理解できるであろう。
幸いにして、大阪府立産業技術総合研究との共同研究では、ZAPRECについて従来に例を見ない高速放電加工や特殊形状加工等の優れた研究成果が得られ、本稿で紹介する様々な実例とともに、学術的見地からも当該材料の優位性が検証され始めたといえる。
■金型用亜鉛合金の歴史
亜鉛の使用が認められるのは、紀元前1000年頃からであるが、総て銅合金の成分の形をとっており、古代ローマ帝国の貨幣としても真鍮が多く残されている。亜鉛金属単体で製造されたのは16世紀に入ってからで、中国が始めて生産に成功したとされている。
金型用亜鉛合金は、亜鉛・アルミニウム・銅の三元系合金で、ドイツではZ430と命名されているように各国で多少の差はあるが、概ねアルミニウム4%-銅3%-亜鉛balanceとなっており、現在のZASに極めて類似した合金設計である。
〈低融点(380℃前後)〉〈鋳造転写性に優れる〉〈鋳造しやすい(固液共存温度域が幅広く取れる)〉〈再生使用できる〉等の利点が多く、第二次世界大戦を機に欧米諸国で盛んに研究開発が行われ、主に大型のプレス金型製作手段として大きな成果を挙げた。
特に、航空機・自動車業界での発展はめざましく、アメリカのグラマン戦闘機が驚異的な速度で完成した背景に、亜鉛合金金型が貢献したという逸話は有名である。
我が国に於ける金型用亜鉛合金は、1954年に三井金属鉱業がZASを上市するまで待つことになるが、その後、自動車・航空機産業へ大きく貢献したことは言うまでもない。
ZAS(Zinc Alloy for Stamping)は、年間約6000t 消費され、その名の通り約80%がプレス用である。実際には再生利用が多く、金型の実需は更に多いことになる。しかし、プレス用では問題にならないZASの表面品質が、プラスチック用では粗悪すぎるし、強度も十分とはいえないことから、三井金属鉱業では1988年11月にプラスチック用量産金型の要求に応える品質を持つZAPRECを上市した。
■加工法
従来の亜鉛合金は、モデルを転写して形状を得ることを大きな特徴としてきた。ZASの精密鋳造法による金型製作工程の概略を表1に示す。
プレス、インジェクション何れにおいても試作型が主な用途で、量産用の金型として亜鉛合金が用いられることは極めて限定的であった。それらの理由として、次のようなことが考えられる。
- 鋳物の精度が悪い。凝固収縮と固体熱収縮の合計が10/1000であるが、xyz方向に均等に収縮が起こることはあり得ないので、モデルに対して相似形の鋳物が出来上がらない。形状が損なわれ、肉厚が不均一になるため製品品質は最悪である。
- ピンホールや鋳巣ができる。ZASは凝固時の固液共存温度域を広く(約17℃)持つ合金で、鋳造が容易である利点は、同時にピンホールの生成という欠点の原因にもなり、プラスチック金型材料としては致命的欠陥である。
- 強度が低い。絶対値としての物性がどの程度が望ましいかは別として、鋼材対比40%以下では使い難く、繰り返し再生使用では品質維持が困難である。
- 周辺環境が整っていない。文献、加工技術、溶接技術等の情報が不十分である。
一方、ZAPRECもまた鋳造用合金として開発されたが、プラスチック用金型の要求品質と鋳造法による金型製作は相いれないとの判断を下し、ブロックからのNC切削加工法に変更した。この段階で亜鉛合金の『構造設計・切削・放電・磨き・溶接』という鋼材の加工方法に匹敵する技術要素を要求されることになったが、殆どゼロからの出発であった。
自動車業界では、ZASの精密鋳造法がZAPRECのNC加工よりもコスト・納期とも有利という評価が強いので表1に工程比較を示したが、ZAPRECのほうが30%強の時間短縮を図れる。さらに、品質は量産用金型に匹敵するので、中・小ロット製品であれば試作型をそのまま量産に使うことが出来ることも銘記すべき要点である。(鋳造法では木型、モデル、砂型、発泡スチロール等大型の処分すべき廃棄物が大量に発生することも再考すべきである)
ZAPRECの特徴は、〈高速加工〉〈成形ハイサイクルと高品質〉の2点に集約できる。表2に他の型材と比較したZAPRECの物性を示す。鋼材に対比して強度特性が約半分の数値であるが、多くのリスクヘッジは用意できるので、これをもって弱点と判断すべきではない。ZAPREC導入初期は、下記例示に基づいて平易に仕分けをして検討することを提案する。
- a. 適切なグループ
-
- 中、大形状製品でリブが多いもの(加工時間は大幅に短縮)
- 反り・ネジレ等の変形が問題になるもの(結晶性樹脂は特に効果大)
- 加工量が多く、CAMデータ量が膨大になりそうなもの
- 加工時間が長く、鋼材では納期に間に合わないもの
- b. 不適切なグループ
-
- 高い鏡面性が要求されるキャビティ型
- コネクタのような精密、研磨、小物部品組み合わせ型
- 熱硬化性樹脂、ゴム、超エンプラ等150℃以上の成形温度製品
- 大量生産のガラス入り樹脂
- 鋼材で補強する部位が多すぎて、型製作が複雑になる製品
- c. その他
ZAPREC型の特徴が理解された段階では、bグループがaグループに移行することもある。また、鍍金の研究が進めば(テスト中)、鏡面性やアブレッシブ磨耗等の問題も解消される。
■金型製作
4.1 高速加工
鋼材との比較をすれば、数倍~数十倍の高速加工性能を持っており、従来の鋼材を対象とする加工理論や常識の枠内で考えないほうが良い。
4.1.1 切削加工
重切削性能は金型材料中で最高である。φ20のスクエアエンドミルによる切削加工時の主軸動力当りの切削能率を表3に示す。一般的に、高速加工は高速回転・高速送り加工と考えられているが、著者らはZAPRECの特徴を生かし、既存の中・低速加工機による深切り込み重切削を狙いの一つとして研究している。
図1は高速重切削の例で、φ5のスクエアエンドミルで深さ10mmを一回で切り込んだ加工サンプルを示す。800mm/minの送り速度で加工したにも拘らず、安定した加工が出来ており、1mmのリブが直立していることから、大量の摩擦熱の発生や内部応力の変動等、鋼材やアルミ合金に見られる変形や倒れ現象はほとんど見られない。
その理由の一つに、刃先の損耗と構成刃先が軽微であることが挙げられる。アルミニウムは鉄との親和力が強く、固体間でも原子拡散がおきるので構成刃先が出来易いし、鋼材においても構成刃先は容易に観察できる。
ZAPREC(亜鉛)は鋼材と潤滑の傾向があり、亜鉛合金が軸受けとして使われた実績すら存在する。加工条件が合わず刃先にZAPRECが付着することがあるが、これは擬凝着であり爪先で容易に剥ぎ取れることから、構成刃先とはいえないし、送りを早くすれば解消することが多い。



図2は刃物が磨耗しにくいことと快削性能を利用して、製品寸法が1.6m四方のパレット金型のリブを直彫りした例である。
深さ75mm、先端φ3mmとφ4mmのリブを入れ子分割や放電加工することなく、しかもリブの内部は殆どミガキレスで仕上げ、刃物を複数本用意したが各種1本で足りた。総工程2ヶ月足らずの完成は、ZAPRECの高速加工性能と発想転換の融合による成果であるが、構想・刃物・工程・納期・価格の総てに於いて前例が無いであろうし、そのメリットは余りにも大きい。(当時このアイデアが現場から著者の不見識として猛反対されたが、今日では現状打破の糸口を示唆しているように思えてならない)
図3はZAPREC切削試験(切削距離:120m)後の工具刃先を示す(φ20超硬ボ-ルエンドミル、回転数:20,000rpm、送り:8m/min、切り込み:4mm、磨耗:0.00mm)。120m使用後もシャープな刃先を維持しており、バンパー等大型の型加工においても、ATCによる同種刃具交換は不要である。
4.1.2 放電加工
ZAPRECの放電加工特性と高速放電加工性能については、本誌等で詳しく発表されており重複を避けるが、以下に若干の補足をする。
(1)ZAPRECの放電加工特性
〈結晶構造によるもの〉
鋼材の放電加工部は、通常相変態等により白層等の加工変質層が形成され、硬化している。特に、細いリブを放電加工で形成した場合は、加工以上にミガキ時間を必要とすることも少なくない。
ZAPRECは鉄に見られるような相変態が無いので、焼入れ等の硬化処理ができない。従って放電加工や溶接による『再溶解と急冷』が行われても、結晶が微細化する程度で硬度の大きな変化や結晶構造の変化による割れ等の現象は発生しない。
〈融点と沸点によるもの〉
放電ギャップが大きいこと、単発の放電痕が深いこと、一回の放電加工量が大きいこと等の現象は亜鉛の融点と沸点が非常に低いことと関連が深いと考える。
因みに(融点/沸点)を列挙すると、ZAPREC(377/907)、アルミニウム(659/2450)、鉄(1543/2900)、銅(1083/2580)である。
放電加工部では、放電による熱エネルギーで金属の溶解と凝固が超短時間で繰り返されているが、ZAPRECの場合は、溶解と同時に定常的な気化が起きており、温度上昇による体積膨張を無視しても単位体積が一瞬にして2490倍になり、微視的には気化部・溶解部はもとより融点付近の軟化層までも除去している可能性がある。ZAPRECの放電加工が、ギャップが大きいことでガスや加工屑の排出が容易で非常に安定している事は勿論であるが、上記爆発エネルギーの寄与も考えられる。
ワイヤ放電加工の調査は未だ十分ではないが、八角形状の面付け加工でタイコ量を試験・測定した結果は、加工速度はSKDの4~5倍、タイコ量は1~1.5μでSKD(3~4μ)の半分以下であり、SKDでは4thカットを要したものが、ZAPRECでは3rdカットで達成できるなど効率的な加工が実現できる。
4.2 CAMプログラム
最近のCAD/CAMの発展は、眼を見張るものがあるが、短納期・低価格の受注環境条件下で加工パスのデータ製作は費用・時間共に負担が大きい。
ZAPRECのメリットはプログラムの負荷の軽減にもある。単純な例でいえばφ1mm深さ5mmのリブ加工の場合、鋼材ではd=0.05mmとすれば100回のパスであるが、ZAPRECではd=0.3mmで加工できるから17回で済む。実際にはこんな単純な議論にはならないが、工具の寿命と同様目に見えない大きな改善要素である。
■成形
5.1 成形品質の良さ
製品の変形(反り、ネジレ、寸法不良)は、金型の手離れを悪くする主たる原因であり、収支を圧迫する最たるものであるが、ZAPRECの熱交換性能の良さは、製品の変形を最小限に抑え、設計者が狙う形状を安定して実現してくれる。ポリアセタール、オレフィン(PP、PE、・・)等成形収縮率が大きい結晶性樹脂では特に効果を発揮する。

5.2 ハイサイクル成形
ホットランナーや特殊冷却回路など金型に特別な細工をせずに安定した品質を維持して、ハイサイクル成形が出来る。多くの実施例があるが何れも鋼材では実現できない水準を達成している。これらは均一、かつ高速冷却能力によるものであるが、ZAPREC型の成形は、素手で製品を取り出せるという成形作業者の証言がそれを裏付けている。
肉厚が10mm~20mmの製品を成形機から取り出し、更にバケツの中で冷やしている光景にしばしば出会うが、鋼材で厚肉成形は型材不適合である。ZAPRECを使えば、肉厚が20mm前後の製品では成形時間が鋼材の1/2以下であることは言うまでも無い。
5.3 金型寿命とロットサイズ
型材料の強度と型寿命の間に相関傾向があることは首肯できるが、必ずしも強い相関ではない。10万~20万ショットの生産を問題なくこなしている例は少なくないが、図4もその例で、形状や成形条件によって異なるが、営業段階での仕分けや設計次第ともいえる。
ロットが大きいとZAPRECを排除するのが常識であるが、小物であれば成形サイクル短縮効果が、金型メンテナンスコストを稼いで余りあることから、寧ろ大ロットに旨味があると考えられないだろうか?
■結言
医療に万能薬がないのと同様、金型にも万能材料は無いのであるが、理解されにくい。鋼材には特殊鋼まで含めて膨大な種類が開発され、炭素鋼と特殊鋼の使い分けや特殊鋼の選択が理論的(時として?)になされている。同様に、ZAPRECにおいてもその特徴を理解した上で選択されれば、望外の成果を得ると確信するが、実際には物性を無視した万能材料的期待をして、叶わぬときは総ての原因を材料に転化して否定する傾向があり、残念である。
鋼材でなければならない金型もあれば、ZAPRECのほうがよい金型もある。4~5型 手がけてみれば、実に良く判るものである。
金型用亜鉛合金ZAPRECの特性について紹介したが、著者が知るのはごく一部であり、採用実績の増加に伴う多くの知見が、ユーザー諸賢によって発見される事を期待する。
※論文は2003年に発表したものです。
CONTACT お問い合わせ
キャステムへのお問い合わせはお電話またはメールフォームにて承ります。必要事項をご入力いただき送信してください。折り返しメールまたはお電話でご連絡差し上げます。
※お急ぎの場合はお電話でお願いいたします。
076-465-3582
[受付時間]月曜〜金曜 8:30〜17:20
お問い合わせフォーム
ZOOM・Microsoft Teamsでの
オンラインミーティングについて